音楽コラム集

【コラム】映画研究部NOAH 第28回「シング・ストリート 未来へのうた」

ONCE ダブリンの街角で 」(2007年)や「はじまりのうた」 (2013年)など優れた音楽映画の制作で知られるジョン・カーニーが監督を務めた2016年公開作品。

「シング・ストリート 未来へのうた」

【あらすじ】

舞台は大不況の最中にあった1985年のアイルランド、ダブリン。

14歳の少年コナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)は、父親の失業をきっかけに学費節約のため公立校へ転校することに。父親は良い学校と言っていたが、実際は不良達が暴れまわり教師が授業中に酒を呷るような荒れ果てた環境だった。

学校では不良達に絡まれ、家では両親の言い争いが響き渡る毎日。そんな日々を送るコナーにとって唯一の楽しみは引きこもりで音楽マニアの兄と隣国イギリスのアーティスト達が映し出された華やかなMVをテレビで見ることだった。

ある日学校の前で見かけた自称モデルの少女ラフィナ(ルーシー・ボーイントン)に一目惚れしたコナーは、「自分のバンドのMVに出演しないか」と声をかける。

なんとか約束を取り付けたものの、MVどころかバンドを組んだことすら無いコナーは慌ててバンドメンバーを集めMV制作に向けて奔走する。

珠玉の80sカルチャー

本作は全編に渡って1980年代カルチャーの魅力が至る所に盛り込まれている。

核となる音楽はデュラン・デュラン、ザ・キュアー、ザ・ジャム、ホール&オーツ、a-haなどMTV黎明期を彩った鉄壁の布陣でイギリス音楽史として見ても非常に楽しめる(ダブリンが舞台ならU2も出してほしかった!)。

コナー率いるシングストリートのオリジナル楽曲も80sの良さが凝縮された良曲揃い。個人的にはザ・キュアー風の「ア・ビューティフル・シー」がオススメ。

衣装や美術も重要な役割を担っている。当時の流行りを安易にトレースせずにリアリティのある仕上がりになっており、ダブリンに住む10代の貧しい若者がなんとかそれっぽく見せようと背伸びしている感じがたまらない。特にコナーをはじめとしたバンドメンバー達の「頑張っているけど絶妙に垢抜けてはいない」感じが非常に微笑ましい。

音楽を通じた少年達の成長物語

最初は厳しい現実からの逃避として音楽に触れたコナーだが、段々と音楽の魅力にのめり込んでいきミュージシャンとして、そして人として着実に成長していく。

最初はヨレヨレだった演奏もメキメキとスキルアップしていき、抽象的だった歌詞は明確なメッセージを歌うようになる。内向的でオドオドしていた態度も薄れて自信をつけていく。

作中コナーは兄のブレンダン(ジャック・レイナ―)からレコードを渡され「ロック指導」を受ける。その度にそのアーティストに影響を受け、ファッションや音楽性も節操なくコロコロ変化していくのだが、その変わり身の早さが本当にチャーミングだ。

①兄からロック指導を受ける

      ⇓

②そのアーティストの楽曲が流れる

      ⇓

③アーティストのファッションに思いっきりかぶれたコナーが学校へやってくる

この流れが作中何度も繰り返される。しかも一緒に登校しているバンドメンバーも似た格好をしてくる(でもやっぱり垢抜けない)ため絵面の破壊力が何倍にも増している。

この「くるか?……やっぱりきたー!」の流れが最高に微笑ましく楽しい。

監督の半自伝的な物語

本人がいくつかのインタビューで語っているが、本作はジョン・カーニー監督の子供時代をもとにして作られている。ただ大きな違いは監督は子供時代バンド結成は出来ず、気になる女の子に声をかけることも出来なかったという点だ。そういった後悔が今作に昇華されているという見方も出来る。

ジョン・カーニー監督は実際90年代にミュージシャンとして活躍していたのだが、そんな彼だからこそ出来る表現がいくつも盛り込まれている。

おすすめのシーンは劇中コナーとエイモン(マーク・マッケンナ)が「UP」を作曲するシーンだ。

2人がギターとピアノで作曲する中で曲の断片が出てくるシーンから、キーボード、ベース、ドラムと各パートが少しずつ重なっていき、美メロのコーラスへとつながる。そしてその曲がコナーの背中を後押しし、彼はラフィナのもとへ向かう。

始まりは小さなパーツが段々と曲として形作られていく高揚感はたまらないものがある。

兄ブレンダンの魅力

本作の影の主役ともいえるのが主人公コナーの兄ブレンダンだ。

本作に出てくる大人は皆主人公達を苦しめ押さえつける悪役として描かれているため、子供VS大人という構図が作品を通して出来上がっている。

その中でブレンダンはコナーを育てる助言者(メンター)という本来両親がするべき役割を担っている。だがそんな彼が大人達に一番苦しめられており、落ちぶれてしまう。

そんな境遇の彼が何故あそこまで音楽にのめり込む必要があったのかは作中で暗示されているが、その背景を知ったうえでラストシーンの彼を見るとつられてガッツポーズをしてしまう。

まとめ

今作は決して能天気な明るい作品ではない。苦しんでいる子どもたちが唯一すがるものを見つけてあがく物語だが、だからこそ彼らの純粋さと音楽のポジティブな要素が際立っている。

「何かを変えたい、今の自分から変わりたい」という人に勇気を与えてくれる優しさが詰まった傑作!ぜひ視聴してほしい。

ちなみにジョン・カーニー監督が在籍していたバンド(The Frames)の映像を「コナーのその後」として見ると倒錯的な楽しみ方が出来てとてもエモい(MVも当時ジョン・カーニーが監督していたらしい)

 

【作品データ】

原題:Sing Street
2016年 アイルランド、イギリス、アメリカ
上映時間106分
監督・製作・原案・脚本・歌曲:ジョン・カーニー
製作:アンソニー・ブレグマン、マルティナ・ニランド
製作総指揮:ケビン・フレイクス、ラジ・シン、ボブ・ワインスタイン、ハーベイ・ワインスタイン
原案:サイモン・カーモディ
撮影:ヤーロン・オーバック
美術:アラン・マクドナルド
衣装:ティツィアーナ・コルビシエリ
編集:アンドリュー・マーカス、ジュリアン・ウルリクス
歌曲:ゲイリー・クラーク
音楽監修:ベッキー・ベンサム
主題歌:アダム・レビーン(Maroon 5)
出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、ルーシー・ボーイントン、マリア・ドイル・ケネディ、エイダン・ギレン、ジャック・レイナー、ケリー・ソーントン

参照画像
https://scannain.com/interview/sing-street-john-carney-interview/

https://pc.video.dmkt-sp.jp/ti/10016782

https://music-cinema.datalibraries.info/singstreet-miraihenouta/

 

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