音楽コラム集

コラム【映画研究部NOAH】ミュージック・ビデオの元祖は誰だ!?(前編)

コラム【映画研究部NOAH】ミュージック・ビデオの元祖は誰だ!?(前編)

Video killed the radio star.

このフレーズは、1981年8月1日、アメリカで世界初の24時間ミュージック・ビデオを流し続けるケーブルTVチャンネル「MTV:ミュージックテレビジョン」が放送を開始した際に記念すべき1曲目として放送されたバグルスの「ラジオスターの悲劇」のオリジナルタイトルだ。ビデオ(この場合は、テレビという解釈で間違いないだろう)の登場があっという間にラジオを駆逐してしまったことを歌っている。バグルスはニュー・ウェーヴ・バンドとしてデビュー、シンセを中心にしたアレンジのキャッチーでプラスチックなポップ・ソングを得意とした。この曲は覚えやすいメロディとラジオの時代を懐かしむどこかセンチメンタルなムードが人気を呼び、1979年に全英チャート1位を獲得している。MTVはたしてどういうおつもりでこの曲を1曲目に選んだのかは明白だ。ラジオの時代はもう終わったのだ!という宣言をしてのけたのである。時代の転換、音楽を映像で楽しむ世代が誕生したことを印象づけるにはぴったりの選曲だった。

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ここで言うミュージック・ビデオとは、楽曲に対して制作される映像作品のこと。ビデオクリップとも呼ぶ。主な目的は、曲を売るためのプロモーション、要するに告知、宣伝だ。その先駆者はやはりビートルズと言われている。

 

ビートルズは、1964年に映画監督リチャード・レスターと組んで自身主演の映画を公開した。「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」。

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一応、ストーリーのある映画だが、演奏シーンや、曲をモチーフにした映像をてんこ盛りに詰め込んだところ、世界中の生のビートルズを観られない欲求不満のたまったファンを刺激。その年に上陸したばかりのアメリカをはじめ世界中で大ヒットした。勢いにのったビートルズは翌年、「ヘルプ 4人はアイドル」を公開。前作がまだツアーで回っていない国々も巻き込んだことがヒントになったのか、プロモーションのために同名のサウンドトラックアルバムから5曲分のクリップ映像を撮影、各国のテレビ局に配布した。この頃、ビートルズは怒涛のスケジュールでツアーをこなしてかなり多忙であったため、音楽番組出演のためのスケジュールを空けることができなかったからということも大きな理由だった。

そのツアーの日々も翌1966年に自らピリオドを打ってしまう。過酷なスケジュールに疲弊したバンドは、来日公演含む極東ツアーを終え、いくつかの公演のあと、すべての公演活動を終了すると宣言したのだ。ライブやツアーは、新譜を売るための最高のプロモーション。そもそもミュージシャンの活動としての中核を成すものなのだが、それほど彼らは追い詰められたのだ。ツアーはやめたが、レコーディングや新曲の発表は継続した。そこで、世界レベルでのプロモーションを維持するために精力的にミュージック・ビデオを撮影、各国のレーベルを通じて放送局に配布した。その多くは演奏している映像というよりは、メンバー自らが出演するイメージ・ビデオといった趣だ。その延長上で新作EPと連動した映画「マジカル・ミステリー・ツアー」や、既存の曲を有効活用したアニメ「イエロー・サブマリン」が制作された。どちらも曲のシーンは素晴らしいのだが、それらをつなぐこれといった物語がないので映画として観るのが難しくファンを選ぶ作品になってしまっている。

 

ビートルズと映像という点では避けて通れないのが映画「レット・イット・ビー」。

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現行のビートルズのカタログにはないタイトルなので知らない人も多いかもしれない。1969年1月、初心に戻るつもりで新譜レコーディングと久しぶりのライブのためのリハを兼ねたセッション(通称:ゲットバック・セッション)をセッティングする。スタジオには撮影クルーも入った。テレビ用に映像を撮影し、アルバムと同時に公開する予定だったのだ。しかし、記録されたのは、葛藤と衝突を重ねて、解散へ向け加速するビートルズの姿だった。思うような結果が出せず、プロジェクトは放棄されたが、1969年、解散表明後にリリースした「アビー・ロード」の次に契約の都合であと1枚アルバムを出さねばならなくなり、日の目を見ることになった。プロジェクトは、アルバム「レット・イット・ビー」と同名のドキュメンタリー映画として完成した。有名なロンドンのアップル社のオフィスの屋上でのライブ映像がフルで見られるなどの魅力はあるのだが、先述の通り現在はリリースされていない。10年ほど前にリリースに向けた動きがあるという公式のコメントはあったので、ファンなら待つべし!

さて、「PVの先駆者はビートルズ」という定説にのっとって長々と解説させていただいた。しかし!もう一人、忘れてはならない人物がいる。

 

ボブ・ディラン!

(NOAHBOOK 高橋真吾)

※画像はWikipediaより