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音楽コラム集

【コラム】公開記念!NOAHBOOKがオススメする今見るべきロック・ドキュメンタリー映画「FILMAGE」!

2015.04.14

25_p14_top.png  ポップ・パンク、メロコアの元祖であり、ご本尊であるディセンデンツ、のちのオールの歴史を、中心人物であるビル・スティーヴンソンにスポットを当ててまとめあげたドキュメンタリー映画「FILMAGE」が公開となった。ロック・ドキュメンタリーは数あれど、多くのキッズの支持を勝ち得たディセンデンツ/オールの普遍的なポップ・センスとビル・スティーヴンソンの不屈の精神、そして彼を真のパンク・ロッカーへと導いた西海岸のパンク・シーンの重要人物の証言は、新たな発見や、より深い理解へと観る者を導くだろう。 25_p14_1.png ○「FILMAGE」には、興味深いポイントがいくつもある。  まずは、ディセンデンツ/オールの音そのものの変遷がたどれるところだ。知らない人のために簡単に言うと、ディセンデンツとオールは基本的には同じバンドだ。ディセンデンツのボーカル、マイロが休止しているときに別のボーカリストを迎えて活動したときのバンド名がオール。どちらも、ドラムのビル・スティーヴンソンが中心人物である。映画製作の時点で35年の歴史を持っていたこのバンド。それは、そのまま西海岸のパンク・ロック、ひいてはアメリカのパンク・ロックの歴史とほぼ同じくらい活動してきたということだ。初期パンクの影響が強い3人編成の最初期、ボーカルのマイロが加入し、ハードコア色を強めつつも、あくまでもポップなセンスを追求し続けた80年代。そして、オールへと変化しつつ1990年代に世界中に広がったいわゆるメロコアの原型を作り上げていった過程がよくわかる。  そもそもビル・スティーヴンソンが友達を誘い、バンドを始め、人気を集めていくわけだが、メンバーや周辺人物の語るエピソードの数々がまたバンドマン必見となっている。メンバーがやめると言い出したらどうすればいいか、食っていくための仕事やそれでも続けていきたいバンドとのバランス、そして家庭と、どのバンドマンも直面する切実な問題を彼らも経験してきた。そして、それを逆境ととらえずに「やめるなんてありえない」とばかりに進みつづけてきたビルの根性が浮き彫りになる。  筆者が個人的にツボったのは、当時の西海岸のライブハウスでは、パンク・ロック然とした見た目じゃないとダメという風潮があったが、彼らは普段着のままだったこと。鋲だらけの革ジャンにツンツンヘアは、彼らにはお呼びじゃない。考えてみたら、同時期の西海岸のバンド、ブラック・フラッグやデッド・ケネディーズなんかもよれよれのチノパンにボタン合わせのシャツという、その音楽性からは想像できない格好でライブをやっている。それは、まるで日曜のお父さん。でなければ、半裸かパンツ一丁。しかし、逆に言えばそれはそれで見た目なんて気にしなくていいという最大級のポジティブメッセージともなっているし、彼らもそれは意識していたハズだ。  今までにもパンク・ロックを取り上げたドキュメンタリーは数多いが、「FILMAGE」はおそらく初めてメロコア・バンドに焦点を絞った作品となっている。そして、ビル・スティーヴンソンという人物が非常に興味深く、おもしろく、それでいてパンク・ロックをやるために生きていることが、ビシビシ伝わってきて熱くなる。これは、制作者の努力にビルが応えた結果だろう。一度でもパンク・ロックに魂を揺さぶられ、3コードの響きに救われた思いをしたことがある人には、ぜひ観てほしい。もちろん、ディセンデンツ/オールのファンの方々にも。バンドってこういうもんだぜ! 25_p14_2.png ○まだまだある!NOAHBOOKがすすめるロック・ドキュメンタリー  ロック・ドキュメンタリー映画はいろいろあるが、一番入りやすくて観やすいのはバンド内幕ものだろう。まずは、2001年製作「NO FUTURE : A Sex Pistols Film」。良くも悪くもパンク・ロックといえばセックス・ピストルズだ。ニューヨーク・ドールズのマネージャーだったマルコム・マクラーレンが、バンドでひとやま当ててやろうと作ったのがセックス・ピストルズ。マルコムはイメージ戦略に長けた人物で、現在語り継がれている傍若無人なピストルズのイメージはすべてマルコムが作り上げたと言っていい。そのマルコムのピストルズ仕事の仕上げが、1980年の映画「ザ・グレート・ロックンロール・スウィンドル」だった。これがマルコムの自画自賛、デタラメだらけの映画だったため、ジョニー・ロットンの怒りを買った。そのジョニーの怒りが20年越しに実を結んだのが、「NO FUTURE」だ。しかも、監督は「スウィンドル」と同じジュリアン・テンプル。当時の貴重な映像を発掘しまくり、鬼籍に入ったシド・ヴィシャス含む旧メンバーの証言によって、ピストルズのリアル・ストーリーを紡ぎ出していく。中でもシドのことを思い出して涙する現在のジョニーの姿は、熱く迫るものがある。  続いて、ラモーンズの「エンド・オブ・ザ・センチュリー」。ラモーンズが無骨に鳴らす3コードはピストルズやクラッシュにも影響を与えた。それは、若者の無邪気な反抗のBGMだった。そして、ファンはその無邪気さを期待してこの映画を観るのだが、ラモーンズの20年の歴史に横たわるすれ違い、いさかい、軋轢をまざまざとみせつけられ、間違いなく落ち込んでしまうとんでもない映画となっている。ただし、ドラムのマーキーは「楽しいことだっていっぱいあった!」と秘蔵のプライベートビデオをもとにDVD「RAMONES:RAW」をリリースしている。  日本映画からも1本紹介しよう。1993年に結成、日本のパンク・ロック、ガレージ・シーンに大きな影響を残しながらも、わずか3年の活動で解散したロックンロール・バンド、TEENGENERATEの足跡を追った映画「GET ACTION!!」。昨年公開されたばかりなのでご覧になった方も多いかもしれない。海外での人気は絶大でありながら、日本ではその名を知る者は限られているティンジェネ。  彼らは60年代〜70年代のロックンロールに多大な影響を受け、初期衝動にあふれた楽曲とライブ・パフォーマンスが魅力。ただ、当時の日本のライヴハウス・シーンとは、あまりにも毛色が異なったため、海外に活動場所を求めた。現在では、インディーズ、メジャー問わず海外へ行くバンドは増えているが、その先駆者とも言える。そして、アメリカの田舎のレコード店でもレコードが売られるほどの人気を獲得した。国内での活動は小規模にとどまったが、ギターウルフのセイジが「TEENGENERATEがいなくなって地球のロックはつまらなくなった」と言うほど国内のパンク、ガレージ・シーンにおけるインパクトは大きかった。この映画の近藤順也監督もティンジェネの絶大なファンで、彼らの存在が日本のロック史から埋もれてしまわないよう相当な熱意を持って製作に臨んだという。その過程で、2013年の結成20年の節目に再結成ライブを実現させ、その模様も映画に収められている。TEENGENERATEを知らなくても生きていけるが、それはとてももったいない。とくにバンドをやっているならば! (NOAHBOOK 高橋真吾)