激音通信

【激音通信】vol.5「叫べ! 吼えろ! 吐くな! デスヴォイスの原点を探る!」

「叫べ! 吼えろ! 吐くな! デスヴォイスの原点を探る!」

○デスヴォイス
いわゆるデスボ、デス声。ラウドロックのみならず、激しい表現のひとつとして、すっかりお茶の間にも定着している感のある歌唱法である。嗚咽を通り越して嘔吐といっていいくらいのような「ボゲーッ!」という叫び声はなかなかにインパクトがある(そして文字にしてしまうと全然勢いが伝わらなくて何とやら、南無三)。その性質上、怒りや悲しみの表現に使われることが多いようである。誰しもが一度は真似をして、のどをボロボロにしたことがあると思う。単純に「ボゲーッ!」と声帯から叫ぶのがデスヴォイスではない。なんと鼻の奥から口腔に向けてぶらさがる「のどちんこ」のあたりを緩め、舌の奥を持ち上げて空気の通り道を狭めて全体を振動させながら発声する、これがデズヴォイスの正しい発声法なのだ。そうウィキペディアに書いてあるから間違いない。実際に試してみようとしても「コロロロロロロッ!」と空気が抜けてのどちんこがブルブルするばかりでまったくうまくいかないが、本当にあっているかどうかはわかりません、悪しからず…。
デスヴォイスはその名の通り、デスメタルをその発祥地とする。デスメタルのお隣のジャンル、グラインドコアでも多様される。デスメタルとグラインドコアの境界線は、音だけでは住み分けがよくわからない。強いて言うなら、やたら「死」とか「死体」とかについて歌っているのがデスメタル。「社会」、「宗教」を批判した内容が多いのがグラインドコアだろうか。あと、デスメタルは革ジャンに黒Tシャツ、グラインドコアはパーカーにコンバースが多い、気がする。※独自研究に基づいています。

○デスヴォイスの誕生
デスメタルは、そもそも1980年代にスラッシュメタルから生まれたアンダーグラウンドな音楽だった。スラッシュメタルはイギリス発のスピード感を売りにしたメタルに、ハードコアパンクの攻撃性が加味されてアメリカで生まれた音楽。さすが移民の国。なんでもかんでも混ぜてしまう雑食性では右に出るものがいない。1980年代に入るとともに徐々に広がりを見せ、85年あたりにメタリカやメガデス、スレイヤーといったバンドが一気にメジャーシーンに浮上して世界中のロックファンに衝撃を与えた。しかし、勢いづいたスラッシュメタルシーンは粗製濫造、玉石混交になってしまった。そのような情勢の中で、デスメタルはスラッシュメタルの新たな方向性として生まれた。
初期デスヴォイスで代表的なバンドが、デスとナパーム・デスといわれる。どちらにも思いっきり「デス」という文字が炸裂しているのがすがすがしい。「誰が最初か」は言い出したらキリがないが、初めてデスヴォイスを広めたのがデスのチャック・シュルディナーと言われており、グラインドコアを代表する世界最速バンド、ナパーム・デスのリー・ドリアンもデスヴォイスの定着に一役買った。実際に、デスの1987年の1stアルバム、”Scream Bloody Gore”を聴いてみると、デスヴォイス、低音で刻むリフ、早急なビートと、私たちが想像するデスメタルのイメージがそのまま展開されている。デスはその後、テクニカルなバンドへと変貌を遂げ、デスヴォイスは多用しなくなる。リー・ドリアンも、ナパーム・デス脱退後はブラック・サバスからの影響が濃いドゥーム・メタルバンド、カテドラルを結成し、デスヴォイスだけに終わらないボーカルを披露している。

○デスヴォイスの原点
似て非なるデスメタルとグラインドコア。同じデスヴォイスでも出自はそれぞれで異なるようである。しかし、どちらもなぜ「ボゲー」なのか。過剰なドラムのビートや、ギターのディストーションに対抗するためという、実用的な意味もあるだろうが、たまたま「ボゲー」になったとは思えない。なぜゲロ吐きながら歌っているような声じゃないとダメなの? 「ググれカス」という声が聞こえてきそうだが、試しに「デスヴォイス ルーツ」とググってみてください。明確な答えはどこにもありません。
デスメタルの影響をさかのぼっていくと、スラッシュメタルがあるわけだが、スラッシュメタルは、アメリカのハードコアパンクと、イギリス発のメタルが出会って生まれた。それは先に述べた。そのイギリス発のメタルバンドのなかで、スラッシュメタルのバンドが一様にリスペクトを表明するのが、モーターヘッドとヴェノムだ。
モーターヘッドはご存知レミー・キルミスターを総帥とするスリーピースバンド。バッキバキのベース・サウンドと、ゴリ押しで走り切るスピードで、世のハードロックファンを震撼させた。
ヴェノムは日本では認知度がいまいちだが、モーターヘッドの影響下にあるこちらもスリーピースバンド。ストレートに表現してしまえば「下手くそなモーターヘッド」といった趣の音を出す。悪魔崇拝、サタニズムを全面に押し出したキリスト教圏ではかなりセンセーショナルなコンセプトと、わざと粗悪な音質でミックスしたアルバムを製作したりと、あらゆるものに中指を立てるバンドだった。しかも、そのルックスたるや、極悪なマイティ・ソーというべきか、一歩間違えたら確実にギャグになってしまうレベルである。
様式的なメタルのあさって側に位置する、飛びぬけて激しいこの2バンドに共通するのは、「ゲロ吐きながら歌っているようなボーカル」である。この2バンドがデスメタルにおけるデスボイスに与えた影響は明らかだ。ヴェノムの悪魔崇拝というバチあたりなコンセプトを、より嫌悪感を増した「死」そのものへと昇華させたのがデスメタルだという見方もできる。ヴェノムはモーターヘッドの影響下にあるわけだから、自然とデスヴォイスの起源はレミー・キルミスターであるとも言える。グラインドコアは、ハードコアパンクよりの影響が大きいが、そもそもハードコアパンクも、ブラック・サバスなどハードロック寄りの影響が強いブラック・フラッグなどのバンドによって始められた音楽だ。とくにG.B.H.のようなイギリスのハードコアは、モーターヘッドを明らかに参考にしている。がなったり、わざと歌詞を不明瞭にシャウトして悶絶するハードコアの歌唱法を、さらに過剰にさせたのがグラインドコアにおけるデスヴォイス。乱暴な言い方だが、ここにもレミーの影響がある。デスヴォイスは、レミー・キルミスターが図らずも産み落とした悪魔の申し子だったのだ。

○恐怖のブラック・メタル
ここで、これぞデスヴォイスという声が聴けるアルバムを一枚紹介しよう。それはノルウェーのブラック・メタルバンド、メイヘムの”Live in Leipzig”だ。
ブラック・メタルの発祥はストレートにヴェノムのアルバム”Black Metal”からとされるが、国はイギリスではなくノルウェーである。1990年代のノルウェーにおいて、ブラック・メタルは完全に恐怖の対象だった。彼らはハードコアパンク上等のヘヴィメタル原理主義者。メタルがすべて。言い換えれば、冗談の通じない田舎者である。1980年代後半からメイヘム、ダークスローンなどのバンドが活動を開始。キリスト教文化へのアンチを徹頭徹尾貫き、黒いレザー、鋲だらけのベルト、死人のように白く顔面をペイントするコープスペイントなどを用いて、音楽から生活までを暗黒に彩った。一番見た目が近くてわかりやすいのは、「デトロイト・メタル・シティ」のクラウザーさんだ。パーカーやスニーカーという、ストリートのスタイルで演奏されるデスメタルやグラインドコアへのアンチを表明した。「俺たち、ファッションで音楽やってねぇぜ! ヘイル・サタン!」というわけだ。彼らは、自身の音楽の世界観を生活でも実践した。徒党を組み、ネオナチへの共感を表明したり、ノルウェー国内の有名な教会を放火、爆破するなどテロリストと化した。次第に行動はエスカレートし、同性愛者の粛清や、内ゲバでの殺人事件が起こるにいたって警察に一斉検挙された。まるで映画「ファイト・クラブ」のようである。
そんなブラック・メタルだが、意外にも重低音でズンズン攻めるような音楽ではない。とはいえ、わざと粗悪な音質で録音したりするので、低音もクソもないのだが。このあたりのスタンスにもヴェノムの影響がうかがえる。スラッシュメタルをより荘厳にしたような北欧らしい曲調が多い。ボーカルは総じて搾り出すような嗚咽、嘔吐の様相で歌い切る。それはいわゆるデスヴォイスっぽいものであったり、耳障りな金切り声だったりする。ブラック・メタルを禍々しい存在にするにふさわしいスタイルだ。
メイヘムのライヴ盤、”Live in Leipzig”は、2代目のボーカリスト、デッド(ひねりのないネーミングが素敵過ぎます)在籍時代の黄金期を捉えた名盤だ。ブラック・メタルがまだテロ活動とは無縁だった1990年、ドイツ、ライプチヒでの録音。例に漏れず音質は最悪だ。再生すると、ライブハウスの開演前の騒音が1分近く続き、デッドの地獄の咆哮が空気を一変させる。重低音でオイオイ言うようなデスヴォイスと違い、ガラッガラの叫び声。デッドのデスヴォイスはどこか寒々しい虚無感を感じさせ、聴いていて背筋が寒くなる瞬間がある。大したMCは入ってないが、MCの間もデスヴォイスで押し切る。”Are you DEAD !?”(お前ら死人か!?)という明快に暗黒なシャウトは、うんこチビること間違いナシだ。当のデッド自身がその虚無感に耐えられなくなったようで、1991年に猟銃自殺。メイヘムのギタリスト、ユーロニモスはその自殺現場の惨状を写真に収め、仲間内に見せびらかした。ユーロニモスは数年後、その仲間内の内ゲバで殺害された。つくづく呪われたバンドである。

○まとめ
コレを読んでいる人は10代後半から20代の方々が多いと存じますが、みなさんがデスヴォイスを初めて聴いたのはいつでしょうか? 古参のメタル、ハードコアファンは昔から馴染みのある声だっただろう。しかし、それはあくまでもジャンル内に限っての話。一般的にもお笑い芸人に真似されるレベルにまで知られるようになったのはいつか? おそらくスリップノットが登場した1999年あたりからではないだろうか?
スリップノットは、デスメタルとグラインドコアを消化し、意外なポップセンスとブレンドして一般のロックリスナーにも広く受け入れられた(また、2001年のサマーソニックで見せた意外な人の良さも、僕らのハートを鷲掴みにした。コンバンハ! スリップノット、デス! ナカユビタテロー!)。
とくに、この10年のデスヴォイスのポピュラー化は凄まじいものがある。デスヴォイスは、軽々とジャンルを越境してみせた。美メロのサビ前はデスヴォイスかラップ、というのがラウド系のお約束になった。
日本では、とくにヴィジュアル系への浸透が目立つ。昨今、お茶の間に人気で、筆者も一押しのゴールデンボンバーもそれをネタにするほどだ。ただ、ヴィジュアル系と呼ばれるバンドは、90年代以降の海外のラウドロックを意欲的に取り入れている。じき誰かがやりだすだろう、という流れは確実にあったので意外性はなかった。
しかし、若人たちよ。デスヴォイスは、サビの美メロへの複線に使うような小手先のテクニックではない。その源流には、どこまでも過剰に反抗と怒りを表現した頭のイカれた連中がいることを忘れないでほしい。

【叫べ! 吼えろ! 己の魂をマイクロフォンにたたきつけろ!】
デスヴォイスは、冒頭に書いたように口腔からのどにかけた全体を震わせて発声する。中には、マイクを口にくっつけて集音の近接効果で低域を増強し、「なんちゃってデスヴォイス」で音を歪ませる人も多いようだ。しかし、デスヴォイスほどクレイジーな表現はないわけで、やはり、そこは「なんちゃって」でごまかしてはいけない。がんばって練習しよう。あくまでも声を出す主体はあなたのボデーであるので、マイクはそのサポート程度に考えたほうがいいかもしれない。ボーカルマイクでいうと、SM58などの定番マイクでは自然と低音を抑える傾向にあるようなので、できるだけ低音を拾ってくれるマイクがいいだろう。そこで、スタジオノアがデスなあなたにオススメするのは、AKGのD5だ! 本来、女性のシンガーの皆さんが、艶の有る低音を補いたいという目的からチョイスすることが多いのだが、低音をうまく伸びやかに拾う、すなわち意外にもデスヴォイスとの相性がいいのだ。ノアでは全店、AKGのD5を無料レンタルしているので、一度、定番マイクと一緒にレンタルして比べてみてはいかかだろうか!

では、また次回!

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※この記事には「独自研究」に基づいた記述が含まれているおそれがあります。

(文:高橋 真吾)

このコラムは、激ロック内で掲載されているサウンドスタジオノアのコラム「激音通信」です。
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