激音通信

【激音通信】vol.2「バンドやろうぜ!! 初期衝動だよ全員集合!!」

「バンドやろうぜ!! 初期衝動だよ全員集合!!」

○ギターエフェクト第一号、ファズ。
現在、ギタリストの必須アイテムであるエフェクター。もちろん、アンプに直差ししてアンプそのものの良さを引き出すスタイルもあるが、リハスタやライブハウスなどの環境の変化に合わせて、エフェクターで調整し、好みの音を出すのが一般的だろう。
ギターをアンプの間に設置して音を加工するエフェクターという技術は、1960年代のイギリスで生まれた。マーシャルアンプも同じころにイギリスで生まれたことを考えると、いかに当時のイギリスが世界のロックシーンをリードしていたかがよくわかる。
エフェクターの第1号、それが1960年代の音楽を代表する音=ファズだ。無理やりたとえるならセミの声を電気的に増幅したようなビービーブチブチした音。イギリスのマエストロ社のFUZZ TONE、VOXのTONE BENDERが初期ファズの代表的な機種だった。その音が生まれた理由には機材の故障で偶然生まれた音を基にしたとか、ギターでオルガンのような音を出すためだったなど、いろいろな説がある。

○ブリティッシュ・インベイジョン
1962年、イギリスでビートルズがデビュー。1964年に「抱きしめたい」が全米チャート1位を記録すると、その人気は一気に世界へと拡がった。後続でデビューしたローリング・ストーンズ、アニマルズ、ザ・フーなどなどのイギリスのバンドも海を越え、大挙してアメリカを目指した。
当時アメリカではロックンロール人気は下火であり、どちらかといえば害のないポップソングばかりが流行していた。そこへ来て、スウィンギング・ロンドンと呼ばれるほどロックが過熱していたイギリスからやってきた音は、刺激に満ちていて、ティーンエイジャーたちのハートを鷲掴みにした。これがロックの歴史でいう「ブリティッシュ・インベイジョン(英国の侵略)」だった。
イギリスのバンドは一味違った。ポップスターは、人が作った曲をうまく弾ければ、誰でもいいバックバンドを従えて歌っていた。しかし、ロックンロールの洗礼を受けた彼らは、うまいヘタなど関係なく、チャック・ベリーなどのように自ら楽器を演奏し、作詞作曲を手がけた。
ビートルズを追って全米デビューしたローリング・ストーンズが、その人気を決定付けたのが1965年。シングル曲「サティスファクション」が大ヒット、英米両チャートで1位を記録したのだ。「サティスファクション」といえば、あの有名なギターリフ。このリフに使用されていたのがマエストロ社のFUZZ TONEだった。前回、このコラムで紹介したリンク・レイはわざとギターの音を歪ませてロックンロールのバイオレンスな側面を強調して見せたが、ファズはその一つ上をいく歪みっぷり。「サティスファクション」はティーンエイジャーの鬱屈した「それじゃあ満足できないぜ」という感情をストレートに表現した歌詞だが、そのインパクトのある歌詞をさらに際立たせていたのがファズの音だった。実は、ビートルズもストーンズに先駆けて使用を試みたが、バンドのイメージを考えたプロデューサーのジョージ・マーティンに却下されたという逸話がある。ビートルズは主に特注のVOX TONE BENDERを65年発表のアルバム「ラバー・ソウル」以降で使用するようになる。ローリング・ストーンズはその後も「マザー・イン・ザ・シャドウ」などファズの音色を印象的に使用した曲を発表している。

○アメリカ全土がファズ天国になった!
ブリティッシュ・インベイジョンに衝撃を受けたアメリカのガキンチョたちは、自分なりのやりかたで楽器を手に取り、バンドを組んだ。これらのバンドは自宅の車庫(ガレージ)で練習することが多かったため、ガレージ・バンドと呼ばれた。1972年。ロック評論家で、のちにパティ・スミス・グループのギタリストとなるレニー・ケイが、こうしたガレージ・バンドのコンピレーションアルバムを編纂した。「Nuggets」(かたまり)と名づけられたそのコンピには、有名無名を含め全27曲がLP2枚組みにぎっしりと詰め込まれていた。ここに集められた音源は勢いだけで録ったような曲ばかりである。一気に通して聴くと意外と疲れるのだが、ほとんどがモノラルのザラッザラした質感で、スピーカーから初期衝動がダダ漏れてくる。そして、どのバンドもビートルズ、ストーンズ、さらにはジェフ・ベック在籍時代のヤードバーズの影響を受け、律儀にファズを使っている。
1960年代も半ばを過ぎると、ロックも反戦などのカウンターカルチャーの隆盛に飲み込まれ、それに伴いドラッグの影響が濃くなってくる。とくにLSDなどの幻覚剤は、精神の拡張を目指す「サイケデリック」という文化を生み出し、「Nuggets」に収録されているなかでも、ザ・シーズの「プッシン・トゥ・ハード」、エレクトリック・プルーンズの「今夜は眠れない」などに大きく影響を及ぼしている。プルーンズの「今夜は眠れない」は、曲そのものはいわゆるビートバンドだが、ただギターにファズをかけるだけではなく、アンプのトレモロのツマミを上げ、さらにミックスの時点で深いリバーヴをかけるなど、酩酊感満載のクラクラした音像が作り上げている。

○ギターの神、降臨!
1967年、その「サイケデリック」の坩堝から飛び出してきたのがジミ・ヘンドリックスだ。もはや説明も不要かもしれないが、ギターの持つ可能性を飛躍的に拡大させた人物。ジミは1966年に発売開始となったアービターエレクトロニクス社のFUZZ FACEを使用し、大出力のマーシャルアンプでフィードバックを自在にコントロール。メインで使用したフェンダーのストラトキャスターは、エレキギターのスタンダードとなった。ブルースを基本としたプレイで、ブルース人気の強いロンドンでまずは人気を獲得した。デビュー・アルバム「アー・ユー・エクスペリエンスド?」ではブルースにとどまらないロック音楽の新たな方向性を提示し、マイルス・デイヴィスなど他ジャンルのミュージシャンにも支持された。
ジミは1967年夏、サンフランシスコで行われたモンタレー・ポップ・フェスティバルに出演。満を持してアメリカへ凱旋となった。ラブ&ピースなヒッピーたちの前でギターに火をつけ、メタメタに破壊するパフォーマンスを披露すると、一気に全米での人気に火がついた。
ジミは1970年に亡くなるまで、技術者ロジャー・メイヤーによってカスタマイズされたFUZZ FACEをメインで使用した。加えてオクターヴ・ファズ、ワウペダルやユニヴァイブなどの新機材も取り入れていき、モンタレーポップと、2年後のウッドストック・フェスではアプローチが変わっているのがよくわかる。FUZZ FACEは1970年代半ばにして生産が止まるが、その後も再発を繰り返し、現在ではジム・ダンロップ社がリリースを継続している。
ジミのフォロワーも、生前から数多く生まれた。ジミ直系、ファズ全開の不器用なフィードバックを得意とした、サンフランシスコのブルー・チアー。彼らは、現在ではヘヴィメタルの元祖の一つに数えられ、レコーディング中のミキサーの針が常にレッドゾーンを指していたという逸話を持つ。デトロイトから登場した反体制バンド、MC5。フレッド・スミスの鋭利なリズム・ギターに、ウェイン・クレイマーの奔放なギターソロが炸裂する。ジョン・コルトレーンやサン・ラーといったスピリチュアル・ジャズからの影響を受けた彼らは、いつまで続くかわからないような即興演奏で延々とフィードバックを鳴らした。MC5と同郷のイギー・ポップ率いるザ・ストゥージズも、ファズで彩ったギラギラしたサウンドを得意とした。代表曲である「アイ・ウォナ・ビー・ユア・ドッグ」ではまさにファズというギターサウンドが聴ける。しかし、これらのバンドはジミの死に誘われるかのように、1960年代とともに終焉を迎えた。

○ファズは鳴り続ける!
1970年代に入ると、ファズの粗い歪みはプレイヤーの加齢とともに徐々に使用されなくなり、きめの細かい歪みがロックの基本になっていく。もちろん、アンプの技術革新が続いたこともあるが、60年代を象徴した音として、その時点で古臭く聴こえてしまったのは確実だろう。
前述の1972年の「Nuggets」リリースは、主にニューヨークの音楽シーンに刺激を与え、現在でいうNYパンクの流れを生み出すきっかけとなった。しかし、ファズの復権には、1991年のニルヴァーナのメジャーデビューを待たねばならなかった。ニルヴァーナをはじめとするシアトルのロック・シーンのバンドの多くが、1960年代から70年代までのロックを好んで聴いていたため、ファズの導入は自然の流れだった。マッドハニーが1988年にリリースしたEPのタイトルは「SUPER FUZZ BIGMUFF」。これは有名なファズの商品名を羅列したものだった。以降、オルタナティヴ・ロックにおいてファズは欠かせないアイテムとなり、どこかローファイで粗っぽい歪みがロックの初期衝動を呼び覚ます引き金となっている。

現在、サウンドスタジオノアでは数多くのエフェクターをレンタルできる。ファズでいえば、ロジャー・メイヤーのVOODOO-XX、自作キットとして販売されているハンドメイド・トンのWORLD WIDE FUZZ。どちらも現代的なアレンジを施したファズとなっている。ほかにもハンドメイド・トンのVALVE DRIVE、やエレクトロ・ハーモニクスのSTEREO POLYPHASEなどの飛び道具もそろっている。
中でも注目なのは、日本に初めて入荷する中からサウンドスタジオノアが入手した、Bogner pedals。ギターアンプで有名なBognerのブランド名を冠した新製品だ。今回のリリースは3種。それぞれ趣の違う歪みを味わえる。
詳細はスタジオ・ホームページ、またはフリーペーパーNOAHBOOKの最新17号に掲載されているのでレンタルできる店舗とあわせてチェックしてみてほしい。

(文:高橋 真吾)

このコラムは、激ロック内で掲載されているサウンドスタジオノアのコラム「激音通信」です。
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