音楽コラム集

【コラム】テレビ音響効果の世界「リアリティを保ちつつ存在感を際立たせる技」

 前回はBSプレミアムドラマ「ドンパル」のレコーディングの話をしましたが、今回はそのドラマの効果音についてお話ししたいと思います。
 簡単にあらすじを紹介しておくと、韓国から流れ着いたボクサー、ドンパルと日本人の女の子の出会い、そしてふたたび世界タイトルマッチを目指し二人で必死に生きていく実話に基づいたドラマです。
 軸となるのは当然ボクシングの練習風景と試合です。困ったことに、スパーリングなどのシーンは実際のボクシングジムで撮影したため、主人公ドンパルのパンチの音が周りの練習ノイズ(縄跳びやほかの選手のパンチ音)にかき消されて浮かび上がってこないのです。しかし、こんな悪条件のシンクロノイズを逆手に取るやり方があります。本来はビデオのシンクロ音はすべて消して新たに付け直すのですが、今回は撮影時のドキュメント感を残すため、あえてシンクロ音の上にドンパルのパンチの音をかぶせて行く方法をとりました。ビデオカメラのシンクロノイズのいいところは、映像とシンクロする音のリアリティです。
 私たちが暮らす日常の音は大きく2つに分けられます。1つは漠然としたバックグラウンドノイズ、もう1つはメッセージを含んだサウンドです。たとえば、救急車のサイレンは「今、緊急を要する患者を運んでいるので道を開けてください」という意味の音です。クラクションの音やホームの発車のベルなど、すべてメッセージを含んでいます。
 映像の世界では、このバックグラウンドノイズとメッセージを含んだサウンドを上手く使うことで、映像に説得力を持たすことが可能になります。本来、ボクシングなどのスポーツは役者さんが頑張って演技してもどこか嘘くささが感じられるものです。そこで、シンクロノイズをバックグラウンドノイズとして使うことでリアリティを保ちつつ、パンチの音を足すことでドンパルの存在感を際立たせるわけです。

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中島 克(なかじま まさる)
有限会社サウンド・デザイン・キュービック代表取締役。1985年、東京サウンドプロダクションを退社後、キュービックを設立。TSP在籍時には、テレビ朝日「川口探険隊」の選曲を担当。独立後は、「警視庁24時」「驚きももの木20世紀」「星新一のショートショート」などの番組も担当した。現在は、「美の巨人たち」「THE追跡」「Song to Soul」など楽曲制作も含め幅広く活動している。
[サウンド・デザイン・キュービック ]http://www.cubic-power.net