音楽コラム集

【コラム】映画研究部NOAH 第15回 映画『フォーエバー!ブルース・リー』

【コラム】映画研究部NOAH 第15回 映画『フォーエバー!ブルース・リー』

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2000年、日本のレコード会社VAPがリリースした謎のコンピレーション。現在は廃盤。数少ないブルース・リー主演作からセレクトされた、レーベルを越えたコンピかと思われたが、聴いてみると何かが違う。どうやら本物ではない。ほとんどの曲はリーの怪鳥音(=叫び声)が明らかに本人のものじゃない。最大の謎はタイトルトラック。風間健なる人物がひたすらブルース・リーへの思い入れを熱く歌っている!ツッコミと困惑を禁じえない中で知った事実。それは…。

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ブルース・リーの生と死

ブルース・リーは香港映画に新風を吹き込んだ武打星。1960年代半ばに米国で武道家として成功。映画のアクション指導、端役を経験し、香港へ帰郷。新興会社ゴールデン・ハーベストと契約して1971年、”唐山大兄”で主演デビュー。リーの強烈なカンフーアクションは評判を呼び、空前のヒットを記録。続く、”精武門”で2作連続、香港歴代映画興行収入を更新。スターの座を確立する。自ら演出を手がけた3作目”猛龍過江”は、コメディ要素を加えて新境地を開き大ヒット。勢いにのって、第4作 “死亡的遊戯”の準備に取りかかる。と、同時にハリウッドから「燃えよドラゴン」主演のオファーが届き、作業を中断。「燃えドラ」の撮影に入る。恐るべき気合で臨んだリーは、監督を差し置いて自身が演出に取り組む一幕もあった。「香港から世界へ」というプレッシャーも大きくのしかかり、心身ともに消耗した。それが原因かは不明だが、映画完成直後の73年7月、彼の人生は突然の「劇終」を迎えた。同12月、「燃えよドラゴン」が公開。ブルース・リーの存在が初めて世界に知れ渡り、ボンクラ男子の度肝を抜いた。と同時に、彼は既に故人であるという事実が、さらなる衝撃を与えた。

猛龍過江(ドラゴン、海を渡る)

皆が思った。もっとブルース・リーが見たい。だが故人とあっては新作を望めない。当然の流れで「燃えドラ」前夜のブルース・リー主演作3本が次々と公開された。”唐山大兄”には「ドラゴン危機一発」、”精武門”には「ドラゴン怒りの鉄拳」、”猛龍過江”には「ドラゴンへの道」と、威勢のいい邦題がつけられた。この連続公開で1973年から75年ごろまで、空前のドラゴンブームが巻き起こる。日本中の男子中学生が手作りのヌンチャクを手に取った。現在、「燃えドラ」を除くブルース・リー作品の映像ソフトは1980年代に作成された広東語音声で統一されている。だが公開時の原版は北京語音声。日本初公開版は英語音声で、配給会社によってオープニング曲と一部BGMが差し替えられている。当時、海外映画を配給する際、自国向けの再編集、吹き替え、BGMの差し替えは、日常茶飯事だった。この日本初公開版は現在、公式のリリースでは見ることができないため、遅れて来たファンの間では幻となっている。ちなみに現行の広東語版では、キング・クリムゾン、ピンク・フロイドの曲や、別の映画の音楽が無断使用されている。こうしたルーズさも香港映画では日常茶飯事。音声を差し替えなければいけない大きな理由となっている。
日本版オープニング曲は、ジョセフ・クーによるオリジナル曲を別アレンジで再録音、英語の歌詞を載せた歌だった。歌っているのはマイク・レメディオスという人物。その熱い歌いっぷりに「実は水木一郎だZ説」も流れた。驚くべきことに21世紀に入り、ファンの熱心な調査によって実在する人物であることが確認され、新録アルバムのリリース、果ては来日公演まで実現させるという戦前のブルースマンのようなミラクルも起きている。

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ドラゴンが1匹、ドラゴンが2匹…

さて、ここで「フォーエバー!ブルース・リー」に話が戻る。1970年代、唯一、家庭で映画を楽しむためのツールは、映画のサウンドトラック盤だった。日本では、香港時代の3作のサントラ盤が東宝傘下のTamレコードからLP盤で発売された。それらのレコードは、レメディオスの歌を中心に、
映画内で使用されたBGMが効果音、セリフ込みで収録されている。幻の日本公開版の一端を知ることができるため、復刻版CDが出るまではアナログ盤が高値で取引された。当時の男子小中学生たちにとって、LP盤は高価なもの。Tamレコードは手ごろな価格のシングル盤を、LP盤とは別にリリースしまくった。これらはサントラからのシングルカットではなく、すべてスタンリー・マックスフィールド・オーケストラがカバーしたもの。「それ誰?」という話ですが、おそらく日本人スタジオミュージシャンの集まりに適当に名前をつけたのだろう。ネット上には大野雄二の覆面バンドという怪しげな情報もある。もとい、それらのジャケットには「ブルース・リーの怪鳥音入り」という文字が躍った。だが、明らかに本人のものではない叫び声が入ってる音源もある。「ホワチャァアッ!」ではなく、文字通り「アチョーッ!」と思いっきり言ってしまっているのが特徴だ。

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ドラゴン・フォー・セール

件のアルバム「フォーエバー!ブルース・リー」は、このシングル盤カバー音源をまとめたものだった。一聴して評価が難しいのは、演奏そのものはかなりレベルが高いということ。なかなか様になっているトラックもある一方で、「怒りの鉄拳」、「ドラゴンへの道」のタイトル曲は気が抜けるほどダサい。全体的に、ミックスもきっちりまとまりすぎて、どこかカタルシスに欠ける。気合が足らなくて特撮ヒーローもののBGMのようになってしまっている曲もある。そして、一際異彩を放つのが、タイトルトラック「フォーエバー!ブルース・リー」。歌っている風間健は、当時「生前のブルース・リーと交流のあった友人」として頻繁にメディアに登場した人物とのこと。当時のシングル盤のジャケットを見ると、リーの顔が風間氏の10倍くらいの大きさでプリントされている。「あやかりたい」気が満々である。ブームにあやかりたい人と、ブームで商売したい人。その二者が出会って生まれたのが迷曲「フォーエバー!ブルース・リー」なのは間違いない。その胡散臭さは、40年近く経ったいまでも好事家の苦笑を誘う。アルバム「フォーエバー!ブルース・リー」はドラゴンブームに沸いた日本でしか聴けない、ある意味貴重な音源が満載だ。そして「便乗商売」についてよく知ることができる資料でもある。現在は廃盤だが、ブルース・リーに興味がある方は一聴の価値ありだ。

いつも心にドラゴンを

と、締めてみたものの、このアルバムはタイトルを変え、ダウンロード販売が始まっていた!風間健の「フォーエバー!ブルース・リー」もカラオケ入りでバッチリ聴ける、歌える!さらに!!日本初公開版をできる限り再現した音声を収録した主演3作(+「死亡遊戯」)のブルーレイが11月にリリース!これを逃す手は無い!レッツ貯金&予約だ!

一緒に歌おう! フォーエバー!

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ブルース・リー 東宝レコードTamコレクション
(東宝ミュージック)1,500円(税込)
各音楽配信サイトにて配信中!

しかし、このジャケットのダサさはどうにかなりませんか。
(NOAH BOOK ��橋真吾)

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「ドラゴン危機一発」
エクストリーム・エディション

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「ドラゴン怒りの鉄拳」
エクストリーム・エディション

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「ドラゴンへの道」
エクストリーム・エディション

Blu-ray発売元:ツイン Blu-ray販売元:パラマウント ジャパン
価格:各4,980円(税込)
(C) 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.
※「死亡遊戯」も同時発売中!

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