音楽コラム集

【コラム】映画研究部NOAH 第14回 映画『けいおん!』

「無謀だが、あえて言う! 放課後ティータイムのルーツはザ・フーである!」

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 全国の「けいおん!」ファンのまだか! の声が届き、7月18日、映画「けいおん!」のDVD&Blu-rayがリリースされる! まさに世代を超え、中高生からミュージシャンまで幅広く支持された人気作だ。その勢いはノアスタッフの中にもリピーターが現れるほど。映画研究部NOAHとしても見て見ぬふりをするわけにはいかなくなった。今回は堂々と「けいおん!」を取り上げる!
 知らない人のために「けいおん!」をさらっと紹介すると、ギターを弾いたことがない女の子、平沢唯が廃部寸前の軽音部に入部。ベースの秋山澪、ドラムの田井中律、キーボードの琴吹紬(その後、リードギターに中野梓)とギャルバン「放課後ティータイム(HTT)」を結成し、少しずつ成長していくおはなしだ。

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 「けいおん!」には、ロックのネタが散りばめられている。ジミヘン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベックが会話の中に登場したり、「律はコージー・パウエルのようだ」というおおよそ萌えアニメとは思えない台詞がある。それらの人物名について詳しく説明されることはないのだが、おっさん(←筆者)は大喜び。若人はポカン&速攻ウィキで検索。
 発言は主にベースの澪によるものだが、澪は卒業旅行の行先にロンドンを提案するなど、かなりのブリティッシュ・ロック好きとみえる。梓も、ギターでレッド・ツェッペリン(とおぼしきソロ)と、ニルヴァーナ(とおぼしきリフ)を弾いていることから、洋楽志向なのがうかがえる。
 しかし、澪と梓の趣味もただ推測されるだけで、軽音部を舞台にしたアニメの割には、どのキャラがどんな音楽が好きで、どう影響を受けているかまではハッキリしていない。ディテールにこだわった表現を得意としたアニメだけに、惜しい。が、1回だけメンバーがはっきりと「好き」と公言したバンドがある。
 HTTのメンバーがリスペクトするバンド、その名はザ・フー。HTTのドラマー律が、ほかの楽器に興味を持ちだしてフラフラしていたとき、彼女にドラムが好きという気持ちを思い出させたのが「ザ・フーのDVD」だという。筆者はそれを見て、「ワイト島ライヴのDVDでしょ!」と勝手に決め付けた。一方、アニメファンにはハードル高いな! と呆気にとられた。
 ザ・フーは、1960年代のイギリスでデビューした無骨な4人組である。メンバーはボーカルのロジャー・ダルトリー、ギター/作詞作曲担当のピート・タウンゼント、歪みベース元祖のジョン・エントウィッスル、爆発的なドラムを叩くキース・ムーン。HTTと違い、キーボード担当はいない。甘いフェイスのメンバーは一人もいないので、野郎のファンが多かったとは本人たちの弁。1965年発表の”My Generation”で、「年取る前に死にたいぜ」と宣言。大人たちを震撼させ、元祖パンクの異名をとる。
 ライブでは、爆音&ワイルドな演奏で観客を熱狂させた。とくにピートの爆音への執着は大変なもので、まだ自社製アンプ1号を発表したばかりだったジム・マーシャルに、12インチスピーカーを8発搭載したキャビネットを発注。巨大で重いそのキャビは2分割されてしまうが、その上にアンプヘッドを載せ、「マーシャル3段積み」が完成。現在まで続くマーシャル・スタイルの完成に大きな足跡を残した。
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 さらに、ハプニング芸術の影響を受けたピートは、ライブのクライマックスでフィードバック音とともに楽器をコテンパンに破壊した。それに乗じて、ドラムのキースもスティックをスネアに突き刺しバスドラを蹴り上げた。このキースがまたロック界屈指の奇人。彼には愛嬌があり誰からも愛される一方、常にアルコールとドラッグで覚醒しまくっている危険人物でもあった。止まれば死ぬとばかりにノンストップでフィルを炸裂させるドラム。私生活では、彼のドラッグ癖にキレたロジャーに、気絶するまでボコボコにされた。テレビをホテルの窓からブン投げたり、ロールスロイスでプールに飛び込んだり、動物用の麻酔を飲んでライブ中に失神したり、伝説となった奇行も数知れず。アル中治療に処方された薬を、酒を飲みすぎた夜に大量に服用。過剰摂取で死亡という本末転倒な末路も彼らしい。律も、いつかはドラムをボコボコにするのだろうか?
 HTTが、破壊と暴力にまみれたバンドが好きとは俄かに信じがたい。アニメを見ている限り、ギターの唯はまず怖がって興味を持てそうにないバンドだ。
 ところが、第2期第1話。その平沢唯が、「ウィンドミル」に挑んでいた! 
 ウィンドミルとは「風車」のこと。転じて風車のように腕をぶんぶん振り回してコードを弾く大技を指す。長崎オランダ村もビックリ! この技の大家がピートなのだ。ザ・フーは多彩なコードワークと、リズムのキメがガチッと決まった曲が多いが、そのキメで腕をぐるん! ついでにジャンプ&着地! これをマスターすればあなたも立派なピート・タウンゼント! ただ、かなりの練習が必要だ。ピックを持った手の周回軌道をギターのブリッジ周辺に合わせ、そのうえコードを弾く。筆者は、練習中に自宅の電灯を破壊し、ライブ中には人差し指がブリッジを直撃。ピックガードが血まみれになった。そもそも当のピート自身が、ライブ中に右手をケガしまくっているのが数々の映像で確認できる。芸の道は簡単ではないのだ。平沢唯、大した度胸だ!
 が、HTTの曲にザ・フーからの影響を感じるものがあるか? というと微妙。まぁ、ガッツリとフーの影響を受けた曲作りをする女子高生がいたら、「あ、そう」とヒくのは確実だが。律のドラムはフィルを強調しない実直なプレイ。「お前が好きなのはキースじゃなくて、ケニー・ジョーンズだろ!」という誰にもわからない独り言が飛び出してしまう(※ケニーはキースの没後バンドに加入した2代目ドラマー、地味)。
 が、しかしだ。HTTの「ぴゅあぴゅあはーと」という曲。この曲、実は1970年代前半ころのザ・フーのアレンジをうまく取り入れている。1973年発表のアルバム「四重人格」収録の”Bell Boy”、”Dr. Jimmy”といった曲をチェックしてみてほしい。ド頭のギターのコード一発にドラムのドコドコ鳴るフィルで始まる展開。「ぴゅあぴゅあはーと」と同じ! ザ・フーとHTTが一本の線でつながった! ザ・フーのひ孫か玄孫ぐらいの位置に、HTTは存在しているのだ!と、思いたい!
 まぁ寝言はここまで。「けいおん!」をネタにザ・フーの魅力を語るという、いま話題のステルス・マーケティングのような結果となりましたが、映画「けいおん!」は素晴らしい映画ですよ! いや、本当に素晴らしいですよ! どんと来いです!

(NOAH BOOK 高橋真吾
好きなキャラ:ムギちゃん)

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