音楽コラム集

【コラム】映画研究部NOAH 第13回『ライフ・オブ・ブライアン』

 こんにちは2012年! マヤ暦では地球が滅亡するとか言われている2012年!
何のこっちゃ! 厳しい時代に笑いで立ち向かえ!
 今回は伝説のコメディ・グループ、モンティ・パイソンの映画「ライフ・オブ・ブライアン」から、名曲”Always look on the bright side of life”にズームイン!

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メンバー:(LtoR)
エリック・アイドル、グレアム・チャップマン、マイケル・ペイリン、ジョン・クリーズ、テリー・ジョーンズ、テリー・ギリアム

 1969年、BBCのテレビ番組「空飛ぶモンティ・パイソン」で初登場したコメディ・グループ。知的な皮肉と、時にはオチすら捨てるナンセンスなバカバカしさで、新たなスタイルの笑いを世に問うた。若者を中心に人気を獲得。洋の東西を問わず、現在のお笑い番組に与えた影響は図り知れない。「お笑い界のビートルズ」とも呼ばれ、ジョン・レノンは「モンティ・パイソンに入りたい」との言葉を残した。1989年、中心人物であるグレアム・チャップマンの死去により活動停止。略してパイソンズとも呼ばれる。

【救世主に間違えられた男の映画】

 「ライフ・オブ・ブライアン」は、パイソンズが欧米における生活・思想の根幹であるキリスト教に真っ向勝負で挑んだ傑作である。
 そもそもの企画は、「自分がはりつけになる十字架を見たイエスが、『そこの歪みを直して、そこをもうちょっと短く』と十字架にダメ出しをする」というジョークから生まれた(イエスはナザレで大工として生計を立てていた)。
 勉強好きのパイソンズは、イエスについてリサーチ。イエスその人の哲学は立派でふざける余地もないという結論に早々と達した。だったら、イエスの教えを好き勝手に解釈して利用している連中をネタにしてやろうぜ! と意見が一致。ネタを練っていく過程で、救世主と間違えられる平凡な男、ブライアンというキャラクターが生まれた。
 ブライアンは、イエスとは無関係の普通の人物。ブライアンは、救世主を待望する民衆の願望についうっかり巻き込まれ、悲惨な目にあってしまう。一方、良かれと思って結果的にブライアンを危機のど真ん中に放り込む人々は、様々な宗派や教会、権力者を皮肉った存在として描かれる。ところが「喧嘩を売る相手がヤバすぎる」と出資者が辞退。映画製作そのものが頓挫の危機を迎える。
 そのとき、パイソンズのピンチを知った元ビートルズのジョージ・ハリスンが、「うっそ! パイソンズの新作? 超見てぇズラ! 」(リバプール訛り)と言い、会社まで立ち上げて全面バックアップ。完成にこぎつけた。さすが天下のFAB4の一人、金の使い方を知っている。
 公開するやいなや、当然のように宗教家連中から「イエスを冒涜している」と大ブーイングを受けた。あらかじめわかっていたものの、パイソンズはテレビの討論番組などで、ヒステリックな批判を浴びた。ノルウェーなどでは国内上映禁止。
 ノルウェーの隣国、スウェーデンの配給会社は「お隣では面白すぎて上映禁止になった映画」と随分と無茶な宣伝をしかけた。我慢できないノルウェーのファンは国境を越えて映画館に駆けつけた。

【人生明るく生きようじゃない】

 映画にはブライアンの行動を軸に、パイソンズらしい笑いがそこかしこにぶち込まれてる。生まれてすぐに救世主に間違えられるブライアン。まぁ、とにかくいろいろあって最終的に十字架にはりつけられるブライアン。仲間も彼女も母親も頼りにならない。絶望するブライアン。
 そこへ隣の男が声をかける…「ブライアン、元気だせよ」。友達でもない隣の男は、はりつけになっているにも関わらず、ずいぶんと陽気だ。彼の言葉を導入に突然始まる陽気な音楽。この曲がエリック・アイドル作の “Always look on the bright side of life”だ。数年前、NIKEのCMで使われていたから知ってる人も多いかもしれない。
 モンティ・パイソンは実は音楽方面にも強い。そもそもミュージシャンの友達が大変多い。レコードも複数出していて、元ボンゾ・ドッグ・バンドのニール・イネスをメインに、多くのミュージシャンと共作曲を出している。「木こりのうた」、「フィンランド」、「全ての精子は神聖なり」、「銀河のうた」とタイトルだけ並べると何のことだかさっぱりだが、そのなかでも飛び抜けて人気があるのがこの “Always〜”だ。
 男の呼びかけに応じて、はりつけにされた他の囚人たちも「人生の明るいとこ見てようよ」と口笛を吹きながら歌いだす。これから死ぬというのにみんな楽しそうだ。「死ぬときも明るいとこ見てようよ。人生は笑いもの、死はジョーク。人生はショーだってわかるかい? だったら死ぬときは大いに笑わせよう。最後の笑いは君のためのもの。」ついにブライアンも笑顔になり歌いだす。

【クソみたいな人生に立ち向かう方法】

 この曲はイギリス人に好まれ、サッカーの試合なんかでもよく歌われる。イギリス人のユーモアは皮肉も強いが自虐的。イギリス人にとってユーモアとは、自分のひどい状況を笑いに転化させて乗り越えるためのものだという。それが「死」という究極のエンディングだとしてもだ。作詞作曲のエリック自身はこう言っている。
 「皆、死んでしまうエンディングだから、とことん陽気にしてやろうと思ったんだ。それには歌が一番。世の中ひどいことはたくさんあるけど、慣れればなんだって平気っていう実にイギリス人らしい考え方でね。僕らは第二次世界大戦のドイツ軍による空襲の中で生まれた世代。恐怖がどんなものかはわかっている。その恐怖に笑いで立ち向かうんだ。『こんなのちょっとした爆弾さ』ってね。この曲の歌詞はあっという間にできあがり、口笛を使うことも早い段階で決めていた。朗らかな雰囲気が出るからね。死を目前に歌う彼らを見て、観客は最後にふっと心が軽くなるんだ。」
 パイソンズのメンバーに共通しているこの認識は、人生の困難に立ち向かうひとつの方法だ。笑いがひとつの生きる手段なのだ。パイソンズの次の映画「人生狂騒曲」でさらに明確になるが、パイソンズにとって、人生はクソで、人生の意味だの自分探しだのはいっさい無意味なのである。でもそれは否定ではない。つらい人生、世知辛い世の中の、あるがままを全て受け入れるという大きな肯定、レット・イット・ビーなのだ。”Always〜”の最後、徐々にフェイド・アウトする中でエリックは言う。「失うものなんてあるかい? 人はゼロから生まれ、ゼロに帰る。失うものなんて最初からないんだよ!」
 空襲の瓦礫から生まれた世代がたどり着いた笑いの最終型。ここまでくればもう禅の境地、立派な哲学である。イギリス人だけでなく、日本人である私たちにも充分に響いてくる。
 1982年、フォークランド紛争の際。英国の駆逐艦シェフィールドはあえなく撃沈。乗組員は救助を待つ間この歌を合唱した。そして、1989年のグレアム・チャップマンの死。ブライアンを演じたグレアムの葬儀のスピーチの壇上、エリック・アイドルはこの曲を列席者全員で歌うことでグレアムを弔った。
 10年後、パイソンズの回顧番組でメンバーが集まった際は、骨壷に収まったグレアムも出席。テリー・ギリアムの「不注意」により遺灰をぶちまけられ、絨毯の下に掃きこまれてしまったが、死をも超越した笑いにファンは大きな喝采を送った。

【21世紀でも。】

 2011年8月、エリック・アイドルが初めて日本にやってきた。2012年に東京と大阪で上演されるミュージカル「モンティ・パイソンのスパマロット」のPRのためである。「スパマロット」は、パイソンズの本格映画第1弾「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」をエリックがミュージカルに翻案したもの。ブロードウェイでは好評で、トニー賞も受賞。日本は節電のまっただ中で、なんだか大変な時期だった。その大変はまだ続いてるのだが。
 しかし、エリックは会見で力強く語った。「いまこそ”Always look on the bright side of life”を歌うべきだと思いました。この曲の精神ほどふさわしいものはないと思います。(”Always〜”のメロディで)ジンセイ、ラク〜ニ、イキ〜ヨ〜ヨ!」
 まさにその通り。にくいねこの、ちょんちょんなんだから!
(NOAHBOOK ��橋 真吾)

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参考資料:DVD「ライフ・オブ・ブライアン」音声解説:「モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン」Monty Python’s Life of Brian (1979/イギリス)
監督:テリー・ジョーンズ
脚本・出演:モンティ・パイソン
製作:ジョン・ゴールドストーン
製作総指揮:ジョージ・ハリソン、デニス・オブライエン

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Blu-ray 「モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン」
価格:2,500円(税込)
発売・販売元:�潟ニー・ピクチャーズエンタテインメント

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DVD「空飛ぶモンティ・パイソン」Vol.1-7
価格:各1,480円(税込)
発売・販売元:�潟ニー・ピクチャーズエンタテインメント

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DVD「空飛ぶモンティ・パイソン」”日本語吹替復活DVD BOX” 
価格:31,290円(税込)
発売・販売元:�潟ニー・ピクチャーズエンタテインメント