音楽コラム集

【コラム】ミュージシャンのための英会話 #8「Ain't nothin' but AAVE(AAVEっきゃないぜ)」/鈴木 koyu 浩

 黒人の使う英語は学校で習ったものとはだいぶ違う、と思ったことはありませんか? 使われている語彙が違うということだけではなく、文法もだいぶ違いそうだ、というように。
 たとえば『Ain’t Nothin’ Like the Real Thing(本物にかなうものはない)』とか『Ain’t No Mountain High Enough(どんなに高い山も<私達を分かつことは>できない)』といったモータウンの有名曲のタイトルにある「ain’t」は、特に黒人の間でよく使われますが、学校などではあまり取り上げられていないと思います。これはbe動詞やそれ以外の動詞の否定として使われます(ちなみに黒人英語では二重否定は肯定にならないのでこれにも注意が必要です)。
 それからbe動詞が使われないこともあります。たとえば「Where are you?(今どこ?)」の代わりに「Where you at?」なんてよく聞きますね。またいわゆる3人称単数現在の活用がなかったりします(「He don’t〜」とか)。
 このような黒人英語を、単に「非標準的な/教育がない」ものとして捉えるのではなく、ひとつの独立した言語として捉えようとする運動などいろいろあるようです(こういったアメリカの黒人英語をebonicsと呼ぶなど)。黒人文化の確立をサポートしうるそのような認識が、逆に黒人の教育水準を低いままに固定することにもつながりかねないということで、なかなか一筋縄ではいかないようです。
シカゴに住んでいたころは、周りに黒人が多かったこともあり、私自身、黒人の英語にだいぶ影響を受けておりました。アメリカ人の友人に、「あなたの英語と人格は一致していない」と言われたこともあります。その後、黒人英語を使う機会もありませんでしたが、最近は黒人ばかりのバンドで演奏をする機会が多くなったことで、私の英語もだいぶ(再)黒人化しております(「You damn right!(そのとおり!)」みたいに)。
 それにしても、このような英語がアメリカ内外の若者たちにはcoolだと感じられているのも面白い現象ですね(ちなみにcoolという語も黒人英語から始まったようです)。ところで、今回のタイトルにあるAAVEは「African American Vernacular English」の略で、最近はアメリカ黒人の英語を指す際にこの用語が使われることが多いようです。日本語で書かれた専門書もあるようなので興味のある方は読んでみたらいかがでしょうか。

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鈴木 koyu 浩

バークリー音楽大学入学を機にアメリカへ。その後のシカゴ生活を含め合計6年間滞米。98年より東京で活動。日本在住の外国人ミュージシャンのコミュニティONGEN TOKYO主宰。昨年渋谷を中心に約100回のイベントを開催したJapan Music Weekオーガナイザー。INVAGO, Jett Edwards Group, Tokyo Voltage Controlled Orchestraなど参加プロジェクト多数。
http://blog.livedoor.jp/bassist_koyu/