音楽コラム集

【コラム】ゆる〜いヒットの作り方スペシャル「星新一ショートショートの音世界」/マサハラタニ

星新一ショートショートの音世界
音響効果:中島克に迫る

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 「おとなのための童話」をキャッチコピーにNHKで放送された「星新一ショートショート」は、国内外で高い評価を得ているが、この作品の評価を高くしている大きな要因の一つに、すぐれた音響効果の技と音楽のセンスがあげられる。
 目に見えないけれど確実に見ている人に印象を残す音世界。効果音、風の音、セリフなど、様々な要素があるけれど、今回の特集では、この作品の音響効果を担当した「カツさん」こと、中島克さんにご登場いただき、音響効果のおもしろさについて、話をうかがった。カツさんは、日本のTV業界を牽引し続けてきた大先輩。これはきっと面白い話がきけるに違いない…。

マサハラタニ(以下マサ):カツさん、今日はよろしくお願いします。この「星新一ショートショート」はホント大変でしたね〜。
中島克(以下中島):いや〜大変だった。でもおもしろかったよね〜。
 テレビの音響効果に与えられる作業時間って、前日上がりとかが当たり前で、とにかくスピードが要求されるヘビーな仕事なんだけど、この作品に関しては、1週間とか、普通のテレビのストロークではできない時間をかけています。映像のクリエイターたちも時間かけているし、みんながそうやって気持ちを入れて作っているからこそ、いつも見ているテレビ番組とは微妙にかわっていて、おもしろい作品になったと思いますね。
 この作品たちは、映像の質感がそれぞれ全然違います。クレイアニメがあったりと、いろんなものがあるので、映像の特徴をとらえて質感を出すために、音世界もどうするか? 私もディレクターもみんなが考えながらやっていました。まあ、作品を見てください。

作品紹介1 「はじまり」 ※1 

中島:この「はじまり」、おもしろいでしょ?
 自分で言うのもなんだけど、よく音がついてるね〜(笑)。この作品はほんと大変だったんだよ。だってセリフがないんだよ(笑)!
マサ:セリフの代わりに「◯■△X(ブワー)」っとすごい音がついてる。「UFO」を見たとかなんとか言ってるみたいですね。
中島:なんか、この作家の絵そのものに、非常に特徴があって…なんていうんですかね? 線が交じり合って、わりとノイジーなタッチの絵じゃないですか。そのノイジーな感じを、ところどころ強調したいなというのが、すごくありました。で、最初の打ち合わせのときに、「セリフを言うのか?」とディレクターに質問したら、「音楽とSEだけです」って。ビックリしちゃってさ。「大丈夫かな?」「もつのかな?」みたいなさ…。
 そういう意味で、あのセリフ(UFO)のところ、どういう扱いにするのか、すごく悩みました。決まっていたのは、とても汚れた感じを出したくて。それで、結構いろんな音を混ぜて、サンプリングをしまくって「◯■△X(ブワー)」とカオスティックな感じにしちゃいました。これはディテールで結構いろいろ作っている音が多いので、時間はかかっていますね。ところどころ、アンプのノイズの音とかも足してるんだよね。プラグの接触が悪いとき、「ガーガー」いうじゃない? あの音とかね。
マサ:絵のタッチのノイジーさと、音のノイズを掛け合わせて、作品の世界観を作っていらっしゃるわけですね。ノイジーなのに汚れすぎない。まさにアート(笑)。
中島:そうそう(笑)。ちなみに作品の中で、主人公が公園でうなだれているシーンで、空想世界の蛾のような生物が飛んできますが、実はここにも一工夫していて、あえて羽の音をつけています。現実世界の蛾は羽音はしませんよね?でもここに羽音をつけてあげることで、鳥か? 蝶か? みたいな。見ている人に錯覚を起こさせて、作品の異空間というか、異世界というか、世界観を強調することができるんです。
作品紹介2 「鏡」 ※2 

中島:この作品の一番のポイントになるのは、あのちびっこい悪魔の存在感をどう出すかでした。現実に存在しない悪魔に、どうやってリアリティを持たせるか。そこにそうとう苦労しました。まず、悪魔のおびえた奇声(鳴き声?)。これは、フィリピンメガネザルって、すごく小さいサルの声を使いました。まさにあれくらいの(といって画面の悪魔を指差す)たまたま録音してあったサルの声をサンプリングして、全然違う声にするんですけど、もとはサル。
 次に、人間につかまった悪魔が暴れてもがいてるときの動作音には、自分の腕(手首からちょっと上)をたたいて、それでもいまいちだったから、濡らして録ってみたり。いろいろ試して、ちょっと気味の悪い、ああいう感じの音になりました。それから、悪魔はおびえて震えて「カタカタ」と歯を鳴らします。それも自分の歯の音をマイクで録音して、回転上げて、キーを高くして。こうやって、悪魔の存在をかなりインパクトを持って表現できたのが、この作品を成功させているポイントなのかなと思います。
マサ:ラストの夫婦喧嘩のシーンは圧巻ですね。「なにを〜!」「お前のせいだ!」(夫)「あんたのせいよ!」(妻)と。
中島:これがまたえげつない(笑)。ほっぺたをひっぱたく音から始まるんだけど、花瓶を投げる音、ひっぱたいた彼女が吹き飛ぶ音。最後には、ひっぱたいて殴って倒れたところが鏡台。これは「鏡が割れる」というイメージなんです。実は、途中に1回、鏡の割れるシーンがあって、最後にもう1回、鏡の音を強調したかった。この音が付くと、見ている人は「ああそうだ、鏡だったんだ」と気がつきます。文脈の流れの中で、どういう音をつけていくか。難しいことかもしれないけれど、実はね、こういうことなんですよ。
 特に、このショートショートというのは、ストーリーに必ず仕掛けがある。その星さんの仕掛けを、どうやって活かすか? どうやって強調するか? どうやっておもしろく見せるか? みたいなところが、音をつけていて、一番おもしろかったところです。
 ちなみにこの作品のコンセプトは昭和レトロなんだと思います。音楽もタンゴですごく切ない感じだし、映像の質感もどことなくレトロな感じ。それに合わせてトータルの音質を、古いスピーカーから出るような感じの音に変えていますね。SP盤のレコードの音色というか。時代が持っていた空気感みたいなものを、いろんな素材を使うことによって強調できたんだと思います。

※1 「はじまり」
『星新一ショートショート』DVD Vol,5「シュールエディション」収録作品。見知らぬ人物が、ポケットから取り出した不思議な物体。それは突然UFOとなって空に飛び去っていった。次々出会う人は、皆ポケットからUFOを取り出して…。

※2 「鏡」
『星新一ショートショート』DVD Vol,2「ダークサイドエディション」収録作品。合わせ鏡をして悪魔を捕獲した夫婦。痛めつけても死なないその悪魔を夫婦はひどい方法で痛めつけはじめる。悪魔と人間どちらが悪魔か…? 星新一の真骨頂ともいえるシュールな作品。

ーインタビュー後記

 もともとが現代音楽の出身で、作曲も手がけるカツさんは、音響効果のつけ方もなんだかとっても音楽的。非常にアーティスティックなサウンドデザインをしているまさに「音響芸術家」と呼ぶにふさわしい方だった。今後のますますの活躍を期待しています!!
 この原稿作成中に、うれしいニュースが。なんと、この「星新一ショートショート」が、テレビ界のアカデミー賞ともいわれる国際エミー賞のファイナリストに選ばれました! これは、この作品が国際的な評価を受けた証でもあります。皆さん、ぜひこの機会にご覧になって下さいね!

作品紹介

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星 新一 ショートショート (C)2009 NHK・テレコムスタッフ
「ショートショートの神様」として知られるSF作家「星新一」のショートショート(短編作品)を新進気鋭のクリエイターたちが映像化。実写あり。アニメあり。多彩な演出が高い評価を得ている。2008年よりNHK総合・BS2にて放送開始。2009年には、選びぬかれた50作品を収録したDVD-BOXが発売されている。
□制作協力:ディレクションズ、白組
DVDのお問い合わせは、株式会社ハピネット:http://www.happinetonline.comまで。

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中島 克(なかじま まさる)
有限会社サウンド・デザイン・キュービック代表取締役。1985年、東京サウンドプロダクションを退社後、キュービックを設立。TSP在籍時には、テレビ朝日「川口探険隊」の選曲を担当。独立後は、「今夜は好奇心」 「驚き桃の木20世紀」などの番組も担当した。現在は、情報・ドキュメンタリー系を中心に楽曲制作も含め幅広く活動している。
サウンド・デザイン・キュービック http://www.cubic-power.net

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マサハラタニ
Gibsonブルースギターコンテストグランプリ受賞。数々の音楽ワークに携わった後、CM 音楽プロデューサーに転身。代表作は任天堂DS、ミツカン酢など。作編曲や歌手、ギターインストラクターとしても活躍中。星新一ショートショートDVDでは音楽プロデュースを担当。
http://jp.myspace.com/masaharatani