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【コラム】 映画と音楽 第7回「ゴジラ(昭和29年公開)」
☆日本特撮映画の原点
ゴジラ。
日本人にはもはや説明不要、
水爆実験の放射能によって怪物化した古代生物の生き残り。
都市を蹂躙し、口から吐く白い炎は街を炎上させ、
歩いた後には瓦礫の山しか残らない。
登場から55年経過した現在でも人気を保ち続けている、まさに怪獣の王である。
第1作目「ゴジラ」は昭和29年に公開された。
後に黒澤映画の第二班監督も務める本多猪四郎の
戦災の記憶を基調とした手堅い本編演出と、
この世には存在しない怪物を重量感たっぷりに視覚化してみせた
円谷英二の特殊技術は、洋の東西を問わず、評価され続けている。
しかし、はたして演出と視覚だけでゴジラはスクリーン上で
説得力のある存在感を発揮できただろうか?
☆ゴジラに生命を吹き込んだ音響効果
もしあなたがゴジラという名前を聞いたら、
その姿だけでなく、あの雄叫びも思い出すのではないだろうか。
ゴジラの声はどのようにして作られたのだろうか。
そこには2人の天才の努力があった。
その2人とは、音楽担当の作曲家、伊福部昭と
音響効果担当の技師、三縄一郎だ。
彼らはゴジラの声を創造するという仕事を任され、
完成まで多くの試行錯誤を繰り返したのだ。
声の製作にまつわるエピソードに関しては伊福部、三縄両氏から語られている。
この仕事を引き受けた伊福部は、
元来の生物好きから様々な動物の鳴き声を比較検討、
ゴイサギという鳥の鳴き声が一番不気味に聞こえるということで、
ゴジラの映像にゴイサギの声を重ねてみた。
しかし、思いのほか単純に鳥の声にしか聞こえず、
使えないという判断を下す。
一度は行き詰った伊福部だったが、
ゴジラが白い炎を吐くという設定を聞き、生物感にこだわることをやめる。
この生物感の排除という判断がいい方向に転じるきっかけとなった。
その後、三縄と様々な実験を経て、ひとつの方法にたどり着く。
それは松ヤニを塗った手袋でコントラバスの弦をこすり、
そこで生じたノイズを録音し、
再生時のテープの回転数を手動で操作するというものだった。
この半ば機械的な響きをもつ重低音がゴジラの持つ重量感にうまく当てはまり、
ゴジラは叫ぶことが可能になった。
ここで初めてゴジラに生命が吹き込まれ、
キャラクター造形が完成したと言っていいだろう。
以降、シリーズを重ねて何度か再録による声変わりを経るものの、
基本的な声は変わっていない。
☆「ゴジラ」の音楽を作った男、伊福部昭
「ゴジラ」の音楽は伊福部がそれまでに培ってきた現代音楽的な手法、
要素が多く含まれており、ポピュラーでありながら実は画期的な音楽といえる。
その最たるものが日本で一番親しまれている変拍子、
あの9拍子の有名なタイトル曲だ。
北海道で育った伊福部記憶に根ざす土俗的な感性は、
時に旋律よりも打楽器によるリズムを重視し、管弦楽で重低音を強調する。
ヨーロッパ的な音楽が基本とされるクラシックの世界では
賛否がはっきりとわかれるものだ。
しかし、その独特な感性が、ゴジラという今まで誰もみたことのない空想の怪物に
不思議なリアリティを与えた。
以降、伊福部はシリーズ化されたゴジラのほかに、
「大魔神」などを筆頭に数多くの特撮映画音楽を手がけることになる。
伊福部が関わったゴジラ映画を何本か鑑賞すると、
伊福部昭がゴジラにあてたモチーフはタイトル曲の旋律ではないことがわかる。
「キングコング対ゴジラ」などのゴジラの登場時に流れる
重厚な半音階的旋律がゴジラの本来のモチーフだ。
例の変拍子の曲は第1作目では、
ゴジラに立ち向かう防衛隊の登場に伴うモチーフであった。
しかし、その後の長い時間を経て、インパクトの強さや覚えやすさから
ゴジラのテーマ曲として定着したのだった。
ゴジラのモチーフは1作目の後にアレンジされ、
「キングコング対ゴジラ」のゴジラ登場シーンや
「ゴジラ対モスラ」のタイトル曲に使われている。
また、それまでの映画音楽は、編集の終わったフィルムの
音声を記録する部分に直接録音されていたが、「ゴジラ」は音楽をフィルムではなく、
音声記録用のテープに録音した最初の東宝作品であることも特筆すべき点だろう。
ハリウッドでは珍しくない技術であったが、
ここで初めて映画フィルムとは独立して映画音楽を保存することが可能になった。
私たちがCDなどで「ゴジラ」の音楽を聴くことができるのは、
昭和29年に録音されたマスター・テープが現在でも大切に保管されているためだ。
その技術革新から40年近く経過した1980年代初頭、
映画のBGMを収録したサウンドトラック・レコードが大いに人気を博し、
数々の名画のサントラ盤が次々とリリースされた。
聴覚で映画を追体験できるサントラ盤は、
ホームビデオが定着していない時代の重要なアイテムだったからだ。
東宝特撮作品も例外ではなく、
このリバイバルによって初めて伊福部作品の正当な評価が始まった。
映画音楽を入り口に、伊福部の純音楽作品の世界へと踏み込み、
その魅力にはまり抜け出せなくなる者も多い。
戦前は土俗的な作風が近代から逆行した国辱的な音楽といわれ、
戦後は現代音楽や十二音の流行の中で時代遅れといわれ、
怪獣映画の仕事が続いた頃は、
「ゲテモノ、キワモノ」という非難を浴びたこともあるそうだ。
1980年代以降は伊福部作品の音源化企画が続々と組まれ、
LP、CDのリリースが相次いだ。
伊福部昭は2006年に惜しくも逝去。
91歳という高齢にもかかわらず、最期まで作曲にとりかかっていた。
まさに「音楽家」であった。
「ゴジラ」昭和29年公開 東宝作品
監督:本多猪四郎 特殊技術:円谷英二
脚本:本多猪四郎、村田武雄
製作:田中友幸 音楽:伊福部昭
出演:宝田明、河内桃子、平田昭彦、志村喬 ほか

【東宝特撮Blu-rayセレクション】
「ゴジラ(昭和29年度作品)」
Blu-ray 発売中
¥5,985(税込)
発売・販売元:東宝
<伊福部昭を知るための入門編>
○交響二題 (フォンテック 残念ながら廃盤)
指揮:石井眞木 演奏:新交響楽団
合唱:合唱団OMP、千葉大学合唱団

伊福部昭は映画音楽を、あくまで映像に付随する「効果音楽」と考えており、
演奏会などでの演奏には向いていないとして、
長らく観客の前で演奏することを固辞していた。
しかし、サントラ・ブームの盛り上がりと特撮ファンの熱烈な要望にこたえて、
特撮映画のために作曲した音楽(主にタイトル曲)を演奏会用に
交響曲としてまとめたのが「SF交響ファンタジー」だ。
このアルバムには「SF交響ファンタジー」の第一番を収録。
指揮は愛弟子にして著名な音楽家石井眞木。
ゴジラの動機から始まる迫力に満ちた15分間を堪能できる。
また同時収録の「交響頌偈(じゅげ)釈迦」は、
”伊福部節”の真骨頂といえる大曲。
映画音楽などをのぞいては伊福部最後の大作となった。
混声合唱とオーケストラの共演による
第3楽章のあまりのスケールの大きさには畏怖すら覚える。
○現代日本の音楽名盤選 Vol.5 (ビクター VICC-23010)
収録「ピアノと管弦楽のためのリトミカ・オスティナータ」
指揮:若杉弘 演奏:読売日本交響楽団 ピアノ:小林仁

NOAHBOOK読者、特にポストロックや変拍子に
興味がある人に聴いてもらいたいのが
「ピアニスト殺し」の異名をとる「ピアノと管弦楽のためのリトミカ・オスティナータ」だ。
リトミカ・オスティナータとは「律動的反復」とのこと。
ミニマル音楽のようでありながら躍動感に満ちた旋律を繰り返すピアノと、
重厚な管弦楽が一体となって徐々に熱を増してゆき、
怒涛のクライマックスを迎える様は筆舌に尽くしがたい。
エンディング直前で聴かれる神業的「全休止」は鳥肌モノ。
このアルバムに収録されているのはファンの間でも
熱演との評価が高い若杉弘指揮バージョン。
○作曲家の個展 (フォンテック 残念ながら廃盤)
指揮:井上道義 演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団

伊福部交響曲の代表作にして傑作「シンフォニア・タプカーラ」を、
近年、活躍の著しい井上道義による指揮で収録。
「シンフォニア・タプカーラ」は、ある意味伊福部音楽の集大成であり、
伊福部に興味があるのならば必聴と言える。
指揮者の解釈によって重量感、スピード感がかなり違ってくる作品でもあり、
現行リリースされているものは数種類あるが、
個人的には伊福部独特のタメと躍動感を
うまく表現しているように思うので井上版をオススメ。
同時収録の「日本組曲」は、日本の祝祭ムードてんこ盛りの豪快な作品。
楽しい伊福部が味わえる。
<東宝特撮の音響効果をディープに味わうならコチラ!>
○Sound EFX/BGM on Japanese Film 映画の効果音/BGMシリーズ 1「ゴジラ」
(VICG-60591)

先述のサントラ・ブームのさなか、少年たちのハートを鷲掴みにしたのが、
小さな絵本サイズの怪獣図鑑にBGM/効果音入りのカセットが一緒になったもの。
カセットを再生して図鑑を読むと、
図鑑の進行通りに怪獣の鳴き声を聴くことができたのだ。
そこで、ブルーレイなど高画質・高音質で映画を所有する時代となった今、
あえてBGMではなく効果音というテーマで過去の東宝特撮映画の音源を
できる限り1枚に収録したのがこのアルバムだ。
昭和から平成にかけての代表的な作品が網羅されており、
一度再生すれば聞き覚えのある音がスピーカーからズビズバと炸裂する。
かなりニッチな魅力に溢れた1枚だが、資料的な価値は非常に高く、
音響効果に興味のある方、
純粋に怪獣が大好きな小生のようなチャイルド魂溢れる大人は必聴と言えるだろう。
個人的にはキノコ人間マタンゴの笑い声がツボであった。
この独特かつ異様な声は後に「ウルトラマン」のバルタン星人の声として
日本全国の少年たちの耳に深いトラウマを残すのだ。
(NOAHBOOK:高橋真吾)







