音楽コラム集

【コラム】音楽と映画 第2回「ファントム・オブ・パラダイス」

一人の作曲家の悲劇をロックと偏執狂的な映像で描くカルト・ムービー

 映像の鬼才、デ・パルマが1974年に監督したロックと映像を本格的に融合させた野心作。1970年代に撮られたロック映画としては「ロッキー・ホラー・ショー」と双璧をなし、かつては二本立て上映も盛んに行われたほどでした。
当時はホラーの古典として有名だった「オペラ座の怪人」を下敷きに「ファウスト」の悪魔の契約と、一人の女性を巡る悲しい恋が繊細に絡むストーリー。デ・パルマの数多のオマージュを用いた映像と出演も兼ねるポール・ウィリアムズの音楽が、ロックの持つ魅力と悪魔的な一面を引き出しています。ロックのみならず70年代のポップ・カルチャーやファッションも余すところなく盛り込んでいるのも見所です。
この映画でのデ・パルマのスタイルは多くの映画人に影響を与えました。日本の映画監督石井聰亙もその一人、「爆裂都市」での遠藤ミチロウの爆死シーンにそれは顕著に現れています。
架空のレコード・レーベル名として”DEATH RECORDS”という名が登場します。元々は”SWAN SONG”という設定で撮影していましたが、70年代を代表するバンド、レッド・ツェッペリンのレコード・レーベルと同名であることがツェッペリン側からのクレームで判明し、泣く泣く変更を余儀なくされました。この”DEATH RECORDS”が関係はないものの日本の漫画「デトロイト・ロック・シティ」のレーベル名として登場したりするのが面白いですね。
劇中のファントムの作曲シーンはニューヨークに実在するレコーディング・スタジオ、レコード・プラントにて撮影。ここはいわばロックの聖地で、ジミ・ヘンドリックスやデヴィッド・ボウイーなど数々のアーティストが名盤を生み出したことで有名です。そのレコード・プラントに1974年当時、一時的に常設されていた世界で一台しかないシンセサイザーが”TONTO”。この幻の名機がファントムの作曲道具として登場します。”TONTO”はパッと見すると演奏者をぐるりと囲むタンスの群れ、よく見ると電気機器がギッチリ詰まった家具調テレビのような異様な風体。正体はムーグやARPなどのシンセ、モジュールを組み合わせた巨大なカスタム機!スティーヴィー・ワンダーの「インナー・ビジョン」を筆頭に、ディーヴォなどの多くの名盤に使われたことでアメリカのポピュラー音楽に多大なる貢献をしました。残念ながら実際の音は流れませんが、映画の脇を固める意外な出演者です。エンド・クレジットの”TONTO”に囲まれたファントムの姿は彼の孤独と悲哀そのものをうまく演出しています。
この今やカルト・ムービーの傑作となった本作、未見の方は是非ご覧ください!

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「ファントム・オブ・パラダイス」”Phantom of the paradise”
(1974年 アメリカ映画)

監督:ブライアン・デ・パルマ 
出演:ウィリアム・フィンレイ、ポール・ウィリアムズ、ジェシカ・ハーパー
音楽:ポール・ウィリアムズ